カレンダー2.png
 

しばらくは会えそうにないので、デートの仕方を考えています

例えば、さっき、梨がひとつ、そして梨がもうひとつ見えたなら

その梨から梨への間だったら待ち合わせができないか

目の前の梨に触ってみても、絵肌はザラザラしてる、画面はツルツルしてる

今の季節には梨に会えないのか、いつになったらまた会えるのか

梨を知らなかった、生まれてからしばらくの日々があったけど、

今では見たことも触れたこともあって、いつでも「梨」を呼べる日々なので

ここじゃなんの匂いもしないよと嘆かずに、日記のようにはじめてみます

梨から梨への間で

作品画像(ページ上部):久保俊寛《なし2個》1979年、油彩・キャンバス   所蔵:アートギャラリーミヤウチ(梟コレクション)

作品画像(ページ下部2点):関川航平なし1個2020年、画像デジタル加工

 

4/13​

昨日は水やりしたんだっけか、明日起きたらプランターの土の表面を触ってみてすっかり乾いていればおとといは水やり忘れちゃってる二週間くらい前にホームセンターの入り口の園芸コーナーの隅のアウトレットっていうのかな植物でも、正規の値札が剥がされて新しく貼られたシールに書いてあった値段が外に置いてあるから雨で滲んじゃってて読みづらかったけどなんとか読めば「100円」だったら鉢と鉢受けを一緒に買っても数百円しか支払わずに帰りは自転車のカゴにいれたら倒れそうだったから押して歩いて帰ってきてすぐにベランダでペコペコの黒い苗のケースから素焼きの鉢にいれかえたら案外さまになってる、赤い、花が赤い、葉っぱはタンポポみたいな形をしている。大きさもちょうどタンポポくらいで、花はぜんぜんタンポポみたいじゃない。名前がわからない。ビニール袋の中をがさがさとあさっても名札みたいなの無いし、そうだ財布の札入れ部分にしまったレシートを広げてみてみたら「エリエール+Wate ¥548」これは箱ティッシュ、「ワイドハイターEX替 ¥327」これは詰替用の漂白剤、「イチネンソウ ¥100」と書いてある、イチネンソウってもしかして名前かどうかスマホで調べてみると違うってことが説明してあるページをしばらくスクロールして、目の前の赤い花はどうやら一年しか咲かない。こいつ、もう咲いちゃってんじゃん。これが枯れたら後はもう葉っぱだけなのか、詳しい育て方を調べたくても名前がわからない。しばらく「一年草 赤い花」の画像検索結果をスクロールする。

 

4/14

画素数の少ない男の、顔の真ん中にはおそらく今もあるだろう口が喋る、声が遅れるのはネット環境が悪いからなのか、それともただ考え込んでいるだけなのか判断がつかない。こちらも黙っている姿を映しながら実際にも黙っている。

前までは黙っているだけで、同時に黙っている姿でもあったが、最近は黙っているだけだと相手にとってちゃんと黙っていることにならないかもしれず、ただ黙るほかに、黙っている姿もセットでお届けしなければならない。

4/15

 

左手の、親指の腹と、人差し指の第二関節の側面でつまんでいる耳たぶにピアス開けたことあるのか隠れていて見えない小さな小さな穴が開いていないと選択肢がグッと減るの、イヤリングだとパチンってはさむ金具自体が大きいから華奢なデザインだと金具ばっかり目立つしそれを隠すためにひと工夫してるデザインだとなんだかいじましい感じがしちゃうから買うときにはそこらへんよく検討して、何回も試着っていうか実際に耳の横にあててみて商品棚の上に置かれた小さな丸鏡をのぞきこむ自分の顔の、目は、耳の横にぶらさがっているシルバーの、二つ連なったリングがきらきらと揺れているのを見ているから目が合わない。

磁石ではさむタイプのやつは一日中つけてると痛くなってくるし、冬だったらマフラーとかに引っかかったりして取れやすくて、帰ってきて玄関でコート脱いでマフラー外して片方の耳に手をやると、そこに無い。慌ててもう片方の耳もおさえると小さな金属が手にあたって耳元でチャリっと音が聞こえる、こっちはある。いまは両手で左右それぞれの耳たぶをつまんだ状態で玄関に立ち尽くし、今日一日の行動を思い返している。つまんでいる耳たぶは冷たい。

4/16

 

電信柱の上のほうに設置されているのを歩いている時にも見たことがあるちょうど曲げたスプーンのような形をした街路灯が見上げた角度から描かれていてその周りが黒く塗られているとひときわ白く見える光の下では、お互いを追いかけまわすみたいにくるくる飛んでいる二匹の蛾がときどき目測をあやまったように灯部にぶつかったときに立てる乾いた羽音が、大通りから何ブロックも離れて住宅だけが立ち並んだここら一帯は0時を過ぎるともうすっかり寝静まっているのか街灯に照らされた道を歩いている人の姿はなく何の音も聞こえない。黄色い、円筒状の、亀の餌が入っているプラスチックの容器のフタをひねって開ける音は、唯一明かりのついている部屋の中、窓に向かうように据えられたパソコン作業用に買った組み立て式の机は今ではすっかり水槽を置くためだけに使われていて、天板の下についているメッシュの引き出しも餌や手入れ用品をしまっておくのに便利だし、水槽の高さとしても申し分なく、カーテンを開けっ放しにしておけばベランダの腰上くらいまである目隠しの影も落ちずに日当たりが良く、ここでパソコン作業をするには眩しすぎたので結局ベッドに腰掛けて膝の上に置いて操作していたパソコンを閉じて立ち上がり、机の前に近づいて腰をかがめてのぞいた水槽の中の亀は昼間は目を閉じて気持ち良さそうに日光浴している。フタの開いた音が聞こえたのか目を開けた。

4/17

 

「そこで彼はこのマリー・ルマンが生前に嗅覚を持っていたかどうかを調べるために、彼女が死ぬ前の六ヶ月を過ごした住居を訪れて、彼女の知人に彼女の日常生活について質問した。その答えによれば、マリーは煙草の臭いが大嫌いで、ひとが遅くまで煙草をのんだ部屋の窓を翌朝開けて中に籠もった煙草の臭いを外に追い出す仕事を嫌がっていた。また、マリーは料理がたいへん上手であったことも聞き出した。

さらに、マリーと四年間交際していた男の言によると、彼女は花が好きで、花を鼻先まで持っていってその匂いを嗅いだ。嗅覚がないと疑わせるようなことは一度もなかった。マリーが病院に運び込まれるまでの最後の約二ヶ月間病臥している際に世話をした女友達の言によると、マリーは完全な嗅覚を持っていて、すべての風味を解した。病気のために寝汗をかくとその強い嫌な臭いを訴えていたし、味についてもたいへん気難しく、煎じ薬の味が悪いと言って飲まなかったという。」

(萬年甫「動物の脳採集記」中公新書、1997年、201頁)

4/18

 

小さな星のように五枚に分かれた花弁は放射状に広がり、淡い紫色は花芯に向かうにつれ白色に近くなる。草姿や草丈は種によって様々だが、高山帯では針状に伸びた葉が地表近くに密集し這うように広がって生え、上部には葉はつかないため最上部の葉から茎だけが立ち上がっている。低山帯・丘陵帯になるにしたがって葉の形は楕円形にふくらみ、草丈も高く膝上くらいまで成長するものもあり、茎の中部から上部にかけておよそ等間隔に葉がつく。どの分布においても共通して、葉は茎に対して輪生し、花は茎頂と上部の葉のもとにそれぞれ複数個つくが、高山帯の種においては葉のもとにつく花は、密度の高い葉のかげに隠れて十分に成熟せず開花しないまま枯れることが多い。川近くの緩斜面に群生しているものを裸足で踏むとやわらかく茎が倒れて、その際、花弁についていた滴が生成り地のズボンの裾を濡らす。斜面を下り切って川べりに立つ、川面に反射する強い日差しは真夏のもので、すぐにズボンは乾く、振り返って斜面を見ると花はまだ咲いている、ずっと川べりに立っていると、いずれ雨が降るのでまたズボンは濡れる、今度はすっかり濡れてズボンの色は濃いベージュ色になる、それがまたすっかり乾くころにもまだ花は咲いている、花期は初夏から晩秋までと比較的長い。花が枯れるまでここにいるとなると、冬にこのズボンだけじゃ寒い。ヒートテックをタンスの奥から出す。

4/19

 

釣ったばかりの、あるいは近所のスーパーからまるまる一尾買ってきたばかりの、まな板の上に置いたばかりの、いま現れようとしている、魚、はいま読んだばかりで何の魚か、まだ決まっていない今晩の献立は何にしようか、とにかく鱗を取るところまでは進められる。片方の手で尾びれをおさえて、もう片方の手で握った出刃包丁の背をあてがって尾から頭に向かってしごくように動かすと、鱗がバリバリと、真下に見えている魚から剥がれて勢いよく飛び散った鱗のひとつは数日後に、コンロの脇の調味料棚から取りだした砂糖の入ったガラス瓶の側面に張り付いていて、こんなところまで飛んでいたのかと驚きつつ、シンクめがけて爪の先で弾く。ここのところを数年後に読み返すと、勢いよく飛び散った鱗のひとつはまた砂糖の入ったガラス瓶の側面に張り付いていて、こんなところまで飛んでいたのかと驚きつつ、シンクめがけて爪の先で弾く。

今晩の献立はホイル焼き、こちらグリルから取り出したばかりでまだ熱い、アルミホイルを開くとたちまち湯気と一緒に香ばしく立ち上る、何の魚の匂いだろう。

4/20

 

尻尾の記憶をふまれても痛くない、すでに尻尾のない虎たちがのっしのっしと歩きまわる。

同じ森の中をリュックサックの中にロープとナイフとチューインガムを携えて冒険をしてきたエルマー少年は、帰路の船中で靴の底についたままの泥をみつけて、これを払い落とそうかとその場で屈みこんだが、ふと、このまま家まで帰ってみようかという考えが浮かんだ。泥はどれくらい靴の底から落ちないままついてくるだろうか試してみようというのだ。この思いつきにすっかり興味をそそられたエルマー少年は、その夜に船室のベッドにもぐりこんだ後もすぐには寝付かれずに、明日の朝に到着する港から家までの道のりを、一歩一歩進んでいく自分の、靴の底と地面が擦れて、少しずつ泥が落ちていってしまうのを想像しては、「ああ!もっとそーっと、そーっと歩いてくれよ!」と、明日の自分の不注意な歩き方に対して、いてもたってもいられない気持ちになった。

虎たちはエルマー少年からもらったチューインガムをまだ噛み続けていて、時々お互いの口のなかを覗き込みながら、明日には植えられるだろうか、いつもわくわくしている。

4/21

 

下からパン・レタス・ベーコン・トマト・パンの場合、上の歯は焼けたパンの表面をばりっとやぶって、トマトじゅわ、ベーコン塩気、レタスしゃき、パンふわさく、下の歯とカチン。

 

下からパン・レタス2枚・トマト・モッツアレラチーズ・バジル・パンの場合、上の歯は焼けたパンの表面をばりっとやぶって、バジルかおり、チーズむに、トマトじゅわ、レタスしゃきしゃき、パンふわさく、下の歯とカチン。

下からパン・3時間・パンの場合、上の歯は焼けたパンの表面をばりっとやぶって、3時間おもいおもいに過ごして、パンふわさく、下の歯とカチン。

4/22

 

錠前は錆びついて開く気配はないが、扉についた窓枠がひしゃげてガラスの割れているところから潜り込んだ、広い、ここは体育館だったんだろう、全ての壁面が蔓状の植物に覆われているが、バスケットのゴールリングとおぼしき膨らみが両脇に見える。二階部分の遮光カーテンは古い紙のようにやぶれ、天井まで続く大きな窓からはたっぷりの光が差し込んできて、明るい、温室のようになっている。床板はほとんど抜け落ちて基礎の上に降り積もった埃や土などにまみれて一緒くたに腐っている。その床板と埃の混合土のようなところからも植物は育つもので、腰の高さほどもあり、正面奥に見えている舞台までは、この植物の間をかき分けていかなければたどり着けない。

何か動く音がして、天井を見上げると、鳥が、屋根板を支える鉄骨トラスの隙間に巣を作っている。そういえばバレーボールの試合中、レシーブを高く上げすぎてボールが同じようにトラスに引っかかったことがある。

4/23

 

「水やりは単純に水を与えるというだけではなく、土の中の古い空気を押し出して新鮮な空気を入れて、根に呼吸をさせてあげるのよ」という役割もあるようで、それでは、朝起きたらすぐに鉢の前でしゃがみこんで、ジョウロの先端を株元にむけジャバジャバとかけた水が、はじめのうちは土の表面に水たまりを作って、それがゆっくりとしみこんでいくのを見届けている間、鼻の穴で呼吸をしている。一回にたくさん水をかけてはいけない、すこしかけては、しみこんで、またかけてはしみこんでいくのを見届けている、鉢の中の、土の中の、根はどんな形に伸びているのか、白い髭のような一本一本が、いま、新しい水に濡れていく。新しい水の中には新しい空気がある。しゃがんだままの姿勢で鼻から息を吸うたびにお腹がふくらんで太ももにあたっている、昔テレビに映っていた横浜ベイスターズに在籍していたバットを構えているラミレスの二の腕は、ちいさな子どもの頃であればひょっとすると腰まわりくらいの太さがあったが、今だとちょうど太ももくらいの太さだろうか。とにかく太くかった。そのうちに鉢の底から水が溢れてきたので、立ち上がって腰を伸ばして、口から思いっきり空気を吸う。

4/24

 

この季節には梨が食べれない、梨食べたことあるけど、いま食べてないからシャリっと、黒い皿の上に盛られている白い梨を手づかみでもフォークで刺すと、口で食べるときの予感としてシャリっと、口に寄せて唇をつけると冷たくて、どうしたのすっかり冷えてるじゃない。少し離して目の前に掲げる。いつの梨だ?はじめて食べた時の梨は、座って食べたかな、立ったまま無造作に食べたような気はしないが、かといって、角度を色々と変えてためつすがめつ眺めたあとに口に入れたはずもなく、あっさりとした味だ、まるで水のようだ。

4/25

 

ばあちゃんってこんな腕時計してたことあったっけか、腕をつかんでセーターの袖をまくるとあみだくじのような紫色の血管には、ひんやりした血が走っていて、とっくん、とっくん、とっくん、とっくん、と小さいけれど一定の間隔で鳴っている脈拍に耳をすまし、終わりまで聞いていたらすっかり時間が経っている。途中ウトウトしてしまって、何度も寝たり起きたりして「もうこんな時間だわぁ」と、ばあちゃんも居間の壁掛け時計に目をやって「どれ、ご飯の支度すっかい」と立ち上がって台所に向かう背中を見て、これは朝ご飯かな、夜ご飯かな。

4/26

 

随分と日が長くなって18時を過ぎてもまだ暗くない空だが、夕暮れ時に傾いた太陽の色がどんどん濃くなって見えるものがすべてオレンジ色になる日は「アタリ」で、「ハズレ」っていうのは今日みたいな、部屋に差し込む光がだんだんとグレーになってきているのに気がついて、何をしていただろうかその手を止めて、椅子に腰掛けたまま眺めていると、部屋の中に充満している今日一日の名残りに、少し青が混ざってきたかなと思ったら視線の先にはガラス戸の向こうの洗濯物もそろそろ取り込まないと「夜露に濡れちゃう」から、ビニールサンダルに足を差し入れて乗り出したベランダはいつの間にか本格的に夜らしい色合いで、紺色になっている景色のどこか遠くの方から車のエンジン音とタイヤが駐車場の砂利を踏む音、そして季節を間違えたみたいな生暖かい風が顔にあたると「ちょっと夏みたいな感じ!」がして、夏の夜には歩いてコンビニまで行ったこと、コンビニの前、短パンの前ポケットに突っ込んだ財布の重み。

4/27

 

例えば、風景の中にいて、遠くに木が立っている。そうゆうイメージを持ってくれとか言うことじゃなくて、想像の話じゃなくて「木が立っている」と言ったけど、まずはじめに、木もそこにあるところと同じところにええっと「ごめんねお名前は?」と尋ねてみたが返答がない、返答を待たずに続けざまに喋る。だからね、まず木が立っている場所と同じ場所に立っている、もっと正確に言えば歩いて通り過ぎているから、木は近づいてきて、同じようにして遠ざかっていったりする間に、遠くに見えているときには顔の前方についてる目でもって、川の中の流れのあるところに仕掛けた罠みたいにね、編み籠には“返し”がついてるから魚はいっぺん入っちゃうと出ていけないようになってる。遠くの木は何本か並んで生えているんだけど、それをまさか「木立」だなんて思ってもない。近くまでいって地面にささった根っこからてっぺんまで見上げりゃ「木が生えてるなぁ」って思うかもしれないけど、まだ「木だなぁ」としか思っていない。「いや木だなぁとも思ってないかもな」「罠がいちいち、おっ魚だな!と思ったりしないのと同じですか?」「そしたら逃げられちゃうもんね」だから罠の編み籠の口はぽっかりと開いたままで、見上げた木の枝ぶりはすっきりと空に向かって立ち上がっている。まだ浅い黄緑色の葉が太陽に透けるようで、眩しいのが嬉しくて。郵便局の前を大股で歩く、黄色いシャツを着ている。

4/28

 

そうかなと思ったら、ひらひらと落ちてきたフケは頭皮から剥がれて、股の下のガソリンタンクは色を真っ黒に塗装してあればその上に落ちると散らばっているのが分かりやすいだろう白い数片はキックスタートでエンジンをかけると全身を震わせて音がなるバイクがみるみる速度をあげて幅の広い川を向こう側へと渡る長い橋に差し掛かるとき吹き飛んで行方をくらましたフケと元々は一緒のものであったドライバーは依然として前傾姿勢でハンドルを握ってバイクと同じ速度で移動している。アクセルとクラッチを操作すると加速や減速をするバイクが載せているのはアクセルとクラッチを操作するだけの筋力をまだ持っているドライバーはヘルメットの中の汗をすぐに拭うことができないまま乗っているバイクの加速や減速をする。

4/29

 

投獄された庭師は牢の中にあって遠く手入れをすることができなくなった庭に生えている植物たちが窓から見える毎日の空模様や気温を受けてどのように育っているかそのひとつひとつの根の先から葉の先に至るまでを思い描いてこれまでと変わらずに庭を見回り続けた。そして、植物たちの成長をあまりにも正確に思い描くことができたために日を重ねるにつれ荒れ放題になっていく庭を打つ手なく見渡すときの自分の手が芽切り鋏のひとつも持たないことに悔し涙が流れて牢の床に落ちた。

4/30

 

「このようにしていただければ昨日投げ込まれた牢からも出ることのできる私をせっかくであればもう少し先まで連れていってはくれないか、もう少し進んだ先であればそこはまだ買い手のついていない屋敷かもしれず、どれだけの庭があることか、自由勝手なひろがりでもって咲いている花の名前を呼ぶことによって私に与えられ続ける敷石を踏んで、もっともっと庭の先へと進んでいく庭師の背中に連れられて歩くと、左右から迫ってきていた茂みが突如開けて草っぱらに出る。ここの真ん中に用具小屋があると言う。壁にうちこまれた釘にかけてあった使い込んだ道具たちのことを愛おしく思う庭師は、ここで稼業を再びはじめようというのか、ひるがえした帆布の前掛けに首を通して腰の後ろにまわした紐をむすぶ指の動き、小屋を出るとちょうどひさしのように張り出している藤棚、これは私が自分のためにこしらえたもので小屋の前にしばらく腰掛けて休むときに日よけとして具合がよいのだよ。」

5/1

 

画面いっぱいの赤、い、イチゴのショートケーキの白いクリームが映えるように黒い皿を選んで、普段は滅多に敷くことはないので折り癖のついたままのテーブルクロスを広げたダイニングテーブルは一気にパーティーみたいなムード。並べられた人数分のマグカップと、画面の外から聞こえたパチンという電気ケトルのレバーが下がる音がなったならお湯が沸いたので、吊り棚に置いてある貰い物の紅茶の缶を出してきて、固くしまっている蓋をスプーンの柄を差し入れてテコの原理で開けるとき勢いあまってこぼれた茶葉はカーペットの上に散らばってしまった。洗面台の脇に立てかけてある掃除機のコードを伸ばしてコンセントに挿してスイッチを入れた一瞬、電圧が下がってダイニングの照明が暗い画面、に、なったが全く同じタイミングで瞬きをしていたので気がつかなかったみたいだ。

5/2

 

「これがタツノオトシゴか」 図鑑で見て、写真を指でなぞる

「これはタツノオトシゴだ」 図鑑で見たことあったので

「これがタツノオトシゴだ」 図鑑でしか見たことなかったろ?

「これはタツノオトシゴか」 図鑑でも見たことのない種類だ

5/3

 

いちご味のカプリコも、しみチョコも、ガルボもポッキーもいちご味、ピンクやってん。あんた好きなぁ。アイスコーナー見てくるから待ってて。オトンなんやっけ、モウの抹茶味と、アハハ!モウにもいちご味あるやん、ほんまやピンクのパッケージ可愛いな、美味しそうっていうか可愛いわ。棚パッと見ても目ぇに入ってくる、「ふみちゃん、わしピンクで可愛いやろ~いちご味やで~」「こうてや~って?」そこまでは言わんねん、つつましいやろ?ただ可愛くピンク色なだけでそこにおんねん。「それが戦略やん」ふみには聞こえない、手に持ったレジ袋をくるくる回しながら上機嫌な、少し前を歩く背中へ質問を思いつく。

「ツツジはどうなん?」「なにが?」「ツツジもピンクやん」

ふみは話題に出たツツジが、いま自分の歩いているすぐ脇の植え込みに生えていることに気が付いて、立ち止まってまじまじと見てから「ちょっと濃ぃーな」と答える。

5/4

 

おでこのあたりにうっすらと汗を光らせて、寝苦しいのだろうか、でも律義にタオルケットを足の先から首元までかけて寝ている、胸のあたりが呼吸にあわせてゆっくりと上下している。大丈夫、安心して寝ているよ、と言い聞かせて、寝汗を拭いてやってもいい。鼻が時々ぴくっと動くのはなんでなんだろう。明るい部屋に最後に運ばれてきた料理を見ることなく閉じていった瞼と、眠くなると暖かくなる手のひらと、早く靴下を脱いでしまいたい足とが合わさったすべての重さは両腕に抱えられて運ばれ、ベッドの上に横たえられるともう穏やかな寝息をたてている、寡黙な学者のような顔をしている。

5/5

 

チンゲンサイは根元の膨らみが華やかだね。『わ』って感じ。

5/6

 

口の両端を持ち上げたから笑っているように見えた、誰かに呼ばれたのだろうか急に後ろを振り返った首の、筋に沿って落ちた影がななめにシャツの襟まで伸びている、振り返った視線の先は映されないまま次のシーンでは細い路地をぞろぞろと歩いている後ろ姿で、この道を歩いているということは間もなく国道にぶつかって、右に折れると橋が見えてくる。先頭を歩いていた何人かはすでに角を曲がって「お、川だ!」と言っていたのかもしれない、一番後ろをついて歩いている。少し遅れてたどり着いた河原には、去年のちょうど今頃に撮ったから思い出している映像にも、今年にも、土手の斜面を下ったところにはツツジが咲いていて、その生垣のまわりに集まった人たちが振り返って見上げたカメラに向かって手を振っている映像は、幸運なことに、そこに写っている皆がまだ生きていて、いまは目の前にいない。それを、三角コーナーから切ったばかりの野菜くずの匂いがしている台所に立っている、お湯を沸かそうかと思う。

5/7

 

昔、資生堂が出したヘアーワックスのCMに出演していたバナナマンの設楽が髪をセットして格好つけて言った一言は「あの子今どうしてんのかなぁ」なのだが、出かける間際に洗面台の前に立ち、ヘアーワックスを手にとって髪につけ、少し角度をつけて鏡に映した服装に合う靴を、むしろ靴から考えてシャツもズボンも選んだから玄関では迷うことなく取り出したスニーカーに足を差し込んで、また玄関で同じスニーカーを脱ぐ一日の終わりには、ワックスの効果というものは、一日限りのセットをした髪型が保たれている間に遭遇できる相手に向かって格好つけるのに便利な商品として売り出すためのCMの中で、設楽が格好つけている相手であるあの子が、もしも今、設楽のことを思い出すことがあるとすれば、その髪には新商品のワックスはついていない、その姿しか知らない。

5/8

 

レジ締めもすませて鍵をかけて裏口から出た、閉店後のカウンターの上のテレビは黒い、何も映っていない画面には静電気が吸い寄せた埃がついていて、そこは誰も掃除することがない。それぞれのテーブル席に置いている紅生姜は今は冷蔵庫のなかにしまわれている、冷えている。テーブルに置いたままにしている醤油と酢は、透明な瓶の中で静かに水平を保っている。白コショウはもしかしたら銀色の缶の中で少し斜めだったりするのかも、砂丘みたいにサンダルのまま登ろうとすればすぐに崩れて、指の間にコショウが入りこむので、結局は脱いで裸足になったら、砂は昼間の太陽に熱せられていて足の裏が火傷しそうだ。両手にサンダルをつかんだまま四つん這いみたいになって登りきった砂丘の向こうに海が広がる、波打ち際に何人か人がいるのが見える。カブの軽いエンジン音が近づいてきた後に、がこん、と郵便受けに新聞が差し込まれる音、まだ外は薄暗いからハンドルを曲げて方向転換しようとするカブのヘッドライトが店内を一瞬照らして、壁にかかったメニューは読み上げられた。「半チャーハンセット」「レバニラ炒め」「麻婆豆腐」。エンジン音は遠ざかっていった。

5/9

 

立っている、そこから少し腰を落としてみて、肩のあたりが目の高さになる、膝をついてみれば胸のあたりが目の高さになる、しゃがんでみれば腰のあたりが目の高さになる、いやもっと低い位置に目があった頃、お見送りした車のトランクに積みこまれた時のクーラーボックスはまだ中身が空っぽだったので、ちょっと無理して身体を折りたためば誰にも気付かれずに忍び込めたかもしれないが、帰りには海水と一緒に何種類かの魚が入っている。そこから取り出された何匹かが乗せられた調理台を見上げていると、「これいるか」と渡されたのは切り落とされたトビウオの羽で、まだ濡れていて、両手で端と端をつまんで引っ張ると扇子みたいに広がる、骨と骨の間には薄い膜があって透き通っている。トビウオは知ってるか?この羽で空を飛ぶんだぞ。ふーんと思って、広げたままにした羽を手に持って、トビウオがどうやっているか知らないが、とりあえずパタパタと上下に動かしてみて、こうやって飛んでんの?そのまま少し走ってみる。

5/10

 

靴下の中に蜂が飛んでいる、窮屈だろうか。耳障りな音がして他の参列者たちも先ほどから訝しげな様子であたりを気にしているが、しかし当の靴下は革靴の中にしまわれている。それも気にならなくなったのは、壇上左手に見えるパイプオルガンから鳴りはじめた音が講堂いっぱいに響いて、正面のステンドグラスは大きく天井近くまで続いていて、一番上がアーチ状になっているのを見上げる。ステンドグラスから差し込む光は、講堂の中には他に何も明かりはついていないのに周りのすべてが真っ白に見えるくらい明るくて、いや、本当に真っ白なのか。見えていないだけか、あるいはそもそも何もないのか。音だけが、オルガンから聞こえる、ブラックサバスの「アイアンマン」だ。最高に良い気分だ。

5/11

 

ここは線路に沿って二駅分歩いてみたら出てきた緑の看板に白抜きの矢印がさしている方向には公園があると書いてある、入り口には両開きの門とその横には守衛所が設けられているくらいの大きさで、全体としては少しすり鉢状になっている公園の中央の芝生の広場には真ん中を横切るようにキラッとしたあれは、小川が流れていて「なにか生きものがいるかな、近づくにつれて徐々に見えてきた水面を、真上から見下ろすと川底に沈んだ石の上に生えた藻をたなびかせている水の流れの中には「お魚さんいないね、ともしもがっかりしているようだったらあっちには大きな滑り台も見えていたけど「アメンボ!は水の中ではなく、水の表面に確かにちらほらと、6本の足をくっつけて、つい、つい、とよく見れば何匹もアメンボがいる。どれか一匹を目で決めて、その動きを追う、アメンボ同士が近づくとアメンボがつくる水の波紋同士が重なってどっちが追いかけていたアメンボか分からなくなる。

5/12

 

ハーレーってのは、とにかく重いし遅いし曲がらない、チョッパーなんかにカスタムした日にゃほとんどバンザイするみたいに両手あげてふんぞり返って空気抵抗受けまくり、スーパースポーツみたいに膝擦るくらいバンクさせながらサーキット走ったり、峠道でスピード競うような走り方とは訳違うわな、ありゃアメリカのさ、まぁーーーーーーっすぐな道を走るためのバイクだね、ほら周りは見渡す限りカッサカサの荒野で、延々と一本道で曲がる必要がないんだからアクセルひねったまんまで固定してハンドルから手を離しちゃえば、俺が走るから右と左に分かれて通り過ぎていく景色の、水平線近くには背の低い山々の連なりがつくるなだらかな稜線も見えてきて、くちびる乾いて割れちゃって痛いよ。風が直撃し続けてる、ノーヘルにサングラスだけのほうが雰囲気がでるかなと思ったからね、見たことあるだろ『イージーライダー』のイメージだよ、と検索結果に出てきた画像の中のルート66は快晴で、バイクを走らせながらまぶしそうに目を細めている男の顔を、拡大しようとする2本の指は、スマホの画面の上で、つい、つい、とアメンボのような動きをする。

5/13

 

背中を丸めている

黄色い傘の下で

生きたクモを食べる

カナヘビの背を撫でる

驚いたような顔は

東屋のベンチまで戻ってきて

「冷たかった」と言った

同じ公園で

無人のゲートボール場の

灰色の土の中に混じった

透明の粒を集めて

(これはダイヤモンドだと思う)

ビニール袋にいれて

階段を走ってのぼる

5/14

 

どのボタンを押すと一体どこがピコピコなってる、ひとつはお前の目の前にいてお前が言いそうなことを無言のまま立ち上がって、ここで固有名詞(迷うが思い切って)たけのこの里、次は空港の発券カウンターに並んでいる、ダウンジャケットはここより寒い場所に行くので想像するレビューサイトで読んだアメニティがとても充実してましたのホテルのロビーを出たところで(投稿されていたのは雪景色で)ぶるっと震えてファスナーを一番上まで閉めるか、少し戻って機内で着たままでは暑いから丸めて荷棚に押し込めていると、手伝いましょうかの声は、一つのシーンが始まってしまうので丁寧に断って別のボタンを押す指の動きに注目、剪定を忘れていたクチナシの枝と枝の間に引っかかって死んでいるアゲハチョウを軍手をしたままつまんだからか羽の厚みも感じられずに、主や誰かと問へど答えず(あてずっぽうの質問は)ただバランスをとるためだけに用意されたインドカレー、辛さはどうしますか、ラッシー好きですか、長財布をお使いですか、筋肉痛ですか、おっぱいにうっすら血管走っていますか、最後に注意喚起を読む、封筒の開け口で指を切ったりしないように。

5/15

 

ドライヤーをしまう時まずはコードを二つに曲げてからコンセントの先っぽとドライヤーの根元近くのコードをまとめて持っている片方の手と折り曲げたところの少し手前をもう片方の手でつかんでまわして輪っかをつくってその輪の中に曲げたコードのここは先端と呼んでいいのか曲げたあともコードの先端はコンセントの部分な気がして腕を組む予備動作のような手の動きがつくった輪っかにコードの曲げたところを通したら輪っかの向こう側に出てきたコードを引き抜かないといけないがそこで一度も手を離さずに自分の手も一緒にあるいはもっと手首や肘そして肩まで入ってしまってこのままだとコードと一緒に結ばれてしまうが肩までいったら一緒に頭も通して胸も腰も慎重に右足からそして左足のつまさきまでなんとか引き抜いて振り返ると残された反対側の手はさっきまで自分がいたところにいてコンセントの先っぽとドライヤーの根元をつかんだままこちら側に来ようとして輪っかをくぐりぬけたドライヤーのコードは結ばれずにひねられた状態。

5/16

 

時刻は21時44分をまわっています、お伝えします、それでは首都高速道路は3号線の下りは用賀付近で事故のため渋滞、中央自動車道は小仏トンネルを先頭に3kmの渋滞、強い雨が関東一円に降りましたから、中央環状線を走る車はみんな濡れました。ワイパーはフロントガラスをせわしなく左右に行ったり来たりしてくたびれたと車庫でようやく眠りますが、ガレージの外壁に設置されたバスケットゴールの上空を通過した雨雲は今日一日で大量得点を決め、一部昇格を視野にとらえて奮起、眠らずに北上を続けます。川沿いに立ち並ぶトタン屋根をつぎつぎと両手でボロロンボロロンと鳴らして雨が降っているのを、まさに降っている最中の雨を見て、それは白い線のようだとして絵に描くにはそうするしかないがもっとびしょびしょと濡れて黒いアスファルトを見て、これは雨の結果濡れただけじゃないか雨そのものとは言わないのでは空から降らしている雨雲を見上げて、あっこから落ちてくんのよ、肩に。

5/17

 

かつて麦茶がなみなみと注がれたグラスの中で透き通って、冷たいうちに飲んだ喉や、ごくごくという音は、耳に聞こえたのかそれとも喉の中で鳴っているだけだったのか、麦茶の冷たさが通っていく喉を、外から見ると首には汗がつたっているのを、拭ってやろうかと思うとタオルを持っていた手を伸ばすけれど、今はその汗を拭ってやれる親しさじゃない。もうだいぶおぼろげな、どんなポットに入っていたのか、グラスはおそらくまだ使っているやつで今も水切りカゴの中で逆さになって乾いていっている、窓は開いていたが網戸はしまっていた、午後も晴れるならば洗濯機を回してしまおうか、遠くから掃除機をかける音がした。ポットをしまった冷蔵庫にはフラミンゴの磁石がついていた。麦茶はこれまでに何度も、見たことも、飲んだこともあって、その中のいくつかを組み合わせて麦茶のイメージがある、それを取り出して使える、そうしてここに提示された「麦茶」と読んだら呼び起こされる、これまでに麦茶を見たことや飲んだこと、それらが!あること!麦茶は別々の喉を通って、別々のおしっこになって流れていった、にもかかわらず。

5/18

 

いいですか、あいこ続きのジャンケンです、グーグーグーと出続けているので、もしかしたらと思ってからのあいこでしょ、パーにしたら握っていたものが落ちましたか。

5/19

 

ここに図があって、イヤホンを耳に差し込んだ男がこれから進んでいく方向に矢印が伸びて、矢印の先には「風景」という文字が書いてあり、その二文字を囲んだ丸があったが、丸の囲いを消すようにぐしゃぐしゃと線が書き足される。線は手首のスナップを使って書かれたようで、ゆるい弧を描いて反復しながら「風景」の文字の周りに雑草のように広がっている。矢印の途中には、「銭湯」と「ホームセンター」と「郵便局」と書いてあり、それぞれ15時~、6時~、10時~と開店時間がメモしてある。銭湯の前にはいつも、よほどの雨じゃない限り、入り口前の地べたに座って15時の開店を待っている爺さんがいて、早い時には14時くらいから座っている。その目の前を矢印が通ると「ハロー、ハワイユー?」と爺さんは言う。「アイム、ファイン」と答えると「ひひひ、発音いいねぇ」と笑う。「よぉ、どこ行くんだ?」と聞かれたのでメモを見返して「ホームセンター」と「郵便局」に行く、先にお金を下ろすので郵便局に行ってからホームセンターが良い、道もそうなっている。

5/20

 

ハンガー、が引っかかってる、人差し指の先はぷっくりと膨らんでいて、そこに銀色の、これで一つ具体的になったがハンガーは様々な素材で作られている、木製のものもあれば、プラスチック製のものもある、他にもきっと見たことないようなハンガーもあるだろうし、簡単な木の棒みたいなものをハンガーの代わりに使ったりすることもあるだろうし、というか、そういったものを改良していってハンガーは出来たのだろう。ただ、引っ掛けたハンガーは、銀色という指定はあるが、見たことのあるハンガーから選んでくる他なく、選んだハンガーによって人指し指に引っかけた時にかかる重さが決まる。ハンガーの重みで指の表面が凹む、そこにシャツを干す、何色のシャツなのかまだ決まっていないが、すぐ決めたいのは重さに関わることで、長袖か半袖か、衣替えをしたばかりなのにここ数日続いた雨で、半袖のまま外に出ると肌寒くて上着を取りに戻る、鍵をポケットの中で探る、携帯が先に指先にあたる。ハンガーにかかったままの長袖のシャツは乾いてゴワゴワしてる、羽織る。

5/21

 

市役所の正面玄関から入ると吹き抜けになっているロビーにはたくさん矢印があって、「福祉・保険」は二階へ続く階段に向かって、「戸籍」は総合案内の右手に、「納税・課税」は左手に見えてくる丸テーブルと椅子が数セット置いてある喫茶コーナーと自販機の間を抜けたところにある通路に向かっていく途中、一番壁ぎわに設置されたテーブルの上には血圧計が二台並んでいて、誰も腕を差し込んでいない。それを脇目に、矢印の向きと同じ方向に歩いていく水色のキャミソールの上に網目の大きいサマーニットを着た女は「納税・課税」まで到着して「課税課」のカウンターの前に立つ。「原付の名義変更をしたいんですが。」窓口の、名前は鈴井さんがその旨うけたまわる。渡された書類に住所と名前を記入して提出するとき窓口の人は鈴井さんじゃない男の人に変わっていて、座って待ってて呼ばれて向かった窓口に再び立っているのは鈴井さんはここに配属されたばかりで、ナンバープレートの保管場所を知らなかったので先輩職員に訊いて、給湯室の手前のさぁ、グレーの鍵付きの棚の中から取り出した透明なビニール袋に入ったナンバープレートにはボルトとナットも付属していることも初めて知って、手渡す時に、これをしっかり締めていなかったら走行中にだんだんとゆるんでいったら取れちゃうんじゃないか、走行中にサマーニットの網目をすうすう風が通っていくんじゃないか。

5/22

 

網戸にしたまま家を出て、しばらく帰らない。

5/23

 

敷布団に、四隅の意識がなくなるほど近づいて、白く乾いたシーツに沈んでいく重みにも、先端にはいつも使っている指先が、財布から何枚かの札と小銭を取り出していくつかの品物を買った今日も、ガサッとビニール袋を、台所のシンク横のまな板を置くところに、今はビニール袋を、一度置いて、そこから冷蔵庫などに入れていくもののうち、今日中に無くなるものと、今日中には使い切らないものがあって、使い切らないものの方が値が張ることが多いので慎重に選ぼうという気になる。部屋の中にすでにある、目に見えるものたちのほとんどは、選んで、買って、運んできて、まだ使い切っていない、ソファーなんかもあったらいいかもね、布張りにするか革張りにするかまた迷っちゃって、疲れた日にはソファーでそのまま寝てしまったら「布団で寝ないと疲れが取れないよ」という、違う部屋でも何度か使ったことのある台詞には、「お願いこのまま寝させてよ」という台詞を返す。今日一日使っても無くならなかった手足はソファーからはみ出して、ぶらりと垂れ下がって、もう到底自分一人では持ち上がらない重さで、買った時はこんなに重くなかったけどな、子供をあやして起こすみたいに甘いものでも口にいれてさ、チョコレート、ブランデー入ってるような、中身分からん、この身体は白髪になれるかな、と唇だけが動く、チョコレート塗りたくって、まだ黒い髪。

5/24

 

クチナシの枝に引っかかったままだった蝶の死骸は数日経ってもまだ変わりのない姿で、羽も曲がることなくピンと平らなままでいて、ただ寝ているだけなんじゃないかと揺すってみても目を閉じたまま、込み入った枝の間を分け入っていく手に、重なる、クチナシの葉はさりさりと柔らかく、温度はない、裸の、手の甲と手の平はそれぞれ反対を向いている、厚みが、進んでいく枝の中はだんだんと暗くなっていって、眠気を誘う、粉っぽい羽をつまんだ指で、黄ばんで枯れた花柄をちょんと切る、鋼でできた花ばさみはしっとりとした重さが、手の中で冷たい。

5/25

 

ファイニンガーが、見上げた教会は、夜更けにも、寒い朝にも、汗ばんだ額を拭った時も、新しくおろした革靴がまだ固くて地面を蹴る音が、鳥が、目で追っても数えきれない白い、鳩だろうか、石畳に、尖塔の切っ先と同じ形をした影が、つまりそれ以外は光っている路面の凹凸が、サスペンダーが肩に擦れて、野心もある、漆喰の壁にぽっかりと開いた窓が四角く黒い、ミルクパンにお湯の沸く、ハムを切らしていたんだった、引き受けなかった依頼を思い出したり、早足で通り抜ける市場に積み重ねられた生魚は、木箱のささくれと一緒に、馴染みの店主が片手をあげて手を振るシンプルな動きも、生成り色の陽をうけた天幕の下を、小走りのまま、潮の匂いがしただろうか、だから青い、教会の影の中に、遠くに船影を認めて、「おーい」と発せられた若々しい声に、手を振り返すように、動かした筆の先は痙攣して、絵の具が乱反射した。教会の絵、なのか、プリズムの前で、コンバースのハイカットを履いている。

5/26

 

完全なるモンキーレンチが返ってくるんだって。

前に使った時よりも大きなボルトを掴もうとするためには、ウォームギアを回すと掴む部分が開いていく、大陸の移動と同じ速度で。

完全なるモンキーレンチって何?

モンキーレンチって何?

5/27

 

最近ラクダ見てないな、思い描いたラクダはコブ何個。またがって、馬とは違うね。毛が、毛が短くて掴めないんです。暑いところに暮らしているようなので、砂漠、砂丘しか見たことないから、砂丘を何個も繋げてみる、どんどん広げてみる。暑いんだった暑いんだった、腕時計のベルトに汗かいて、水、果物の断面に、飲んでおいたほうがいい。ベタベタする、トマト切って食べてる。まな板の色。

5/28

 

なめらかな水平面上に冷たい、水は、鏡みたいにぴんと張って、そのわずか上には水によって冷やされた空気の層が漂っていて、それを鼻から吸い込む。鼻の穴の一番奥まで冷たい空気を送り込み、勢いよく膨らんでいった肺が今度は、吐き出そうする、息、唇は水の中に入っている。水中で忘れかけていたが、街には鏡が多い。街角で鏡を見かけるたびにそこで必ず出会う人のあごに手をあててみれば、その。人の。形をした、なにかを考えているように見える、ただし厚みはないものとする。なめらかな、タイルの上に座って、生まれてからこれまで基本的にずっと暖かい、いまは冷えた身体が、少しずつ取り戻しつつある体温が、平熱をさらに超えて上昇させればもうもうと立ち込める蒸気が、視界のすべてが、白い、白い、白い、白い、白い、白い、熱い、熱い、熱い、熱い、これは白いというよりも、身体には、少しずつ覚えていった言葉があって、今も覚えていることが、煌々と燃えている、その熱に、平滑な素材を集めて作られた街は溶解して、中心も端もないから視界もない。タイルよりも尻の方が暖かい、ということを、分かる尻。

5/29

 

川、しばらくして橋、そしてまた川、これは風景ではなく文字の並び。

5/30

 

毎日ちゃぷちゃぷと、臓器を入れたままに過ごしていて、地面がゆれるとその臓器の持ち主の、目に見える持ち物も揺れて、部屋の中には高い値段で買ったものもある、働いたら貰ったお金があった時があって買った。えっ、安い値段だ、ったが気に入っている切子細工の青いグラスは骨董市で見つかる、露天で光っている。紙袋から取り出すと、高台から飲み口に向かって透き通った線が何重にも交差して、そそいだ水がぱりんぱりんと砕けているんじゃないか、閉まっていた食器棚の扉はすべて開いてしまって床にはガラス片が散乱している、裸足。スリッパ履かないと、まだ収まっていない揺れに、まずは臓器が揺れたので、ドキドキしちゃう、ってこれもやっぱり臓器の、心臓は直接見たことないけど入っているのは知っている。図鑑で。

5/31

 

廊下を奥へと進んでいく背中が、立ち止まったのは半開きのドアの前で、どうやらここが今晩あてがわれた寝室で、ドアの隙間から覗く室内は、カーテンが閉まっているんだろう薄暗がりに、廊下のオレンジ色の明かりが先に部屋に入っていって、床の上を長方形に伸びた光の先はベッドの足元まで届いた。その後に続いて部屋の、カーペットを踏む、後ろ手にドアをしめると室内は真っ暗になる。入り口から窓までの直線上には何もなかったはずだが、念のため両手を突き出したまま、お腹の向いている方向が前だから、そっちに向かって歩く。手に布の感触がして掴む。

6/1

 

口紅が熱い。唇よりも熱い。

6/2

 

ツツジの花もいできてコンクリの車止めの上ですり潰していたら、手が花の汁で赤いと、誰かの母親が近づいてきて、野球混ざらんの?」いい、つまらんもん。ピッチャーをやってるひとつ年上の子が、あんぱいあーならやらせちゃるって言った。」けど「せん。」って言うから。三塁を守っているおんなし年の子が、ビビって目ぇつぶるじゃろ、って笑ったから「つぶらんし。」バッターボックスに立っているそんなかで一番年上の子は中学生だから、ごじょっぱりはほっとけ。と言った。いいもん野球より香水つくってるほうがおもしろいわ、と思う。ピッチャーが球を投げる、バッターが大きく空振りをしてクソーッと言う。キャッチャーが嬉しそうにストライクツーと言いながら返球する。あんぱいあーはいない。目ぇつぶらんし、と思う。

6/3

 

「1920年代、エレナルース・ヴァルデス・ファウリという女性がよく通ったハバナのレストランで、彼女はメニューにないサンドイッチを注文した。キューバン・スイートブレッドにクリームチーズとイチゴジャムを塗って、ローストターキー(七面鳥)をのせる。彼女はそのサンドイッチを注文するとき、いつも同じ説明を繰り返さなければならなかった。だがしばらくしてそのサンドイッチがメニューに加わった。その名前がエレナ・ルースだった。エレナ・ルースは今ではキューバを代表するサンドイッチのひとつだ。ターキーは鶏肉よりも強い独特のフレーバーを持っているが、淡白で、ジャムやフルーツといった甘いものとよく一緒に食べられる。」

(佐藤政人「意外な組み合わせが楽しいご当地レシピ355   世界のサンドイッチ図鑑」誠文堂新光社、2017年、202頁)

6/4

 

「エレナ」と呼ぶ声に、エレナと名付けられた人が振り返る、あるいはエレナと名付けられたサンドイッチが注文されてカウンターの奥の厨房で作られはじめる、あるいはエレナと名付けられた犬が走ってきて足元にじゃれつくのを飼い主が慌てて追ってきてごめんなさいねと言う、エレナは去り難そうな表情をしているがリードを引っ張られてやむなく顔の向きを変える、あるいはエレナと名付けられた一本の黒檀の木が生えている、すぐそばに小さな碑が立てられていてその前で老夫婦が膝をついて黙祷をしている、あるいはエレナと名付けられた通りが朝を迎えている、ひんやりした空気の中をまだ眠たそうな人たちが行き交っている、あるいはエレナと名付けられた渓谷が濃い霧につつまれている、川は見えないが絶えず水の流れる音がしている、重なった落ち葉の底にある地面の傾斜を足首がとらえている。

6/5

 

マイクの電源は入っていたのだが、だいぶ時間が経ったので日に焼けた音声データはうまく再生できないようになっていて、見下ろしたアングルでとらえられたスクランブル交差点の上をたくさんの人が傘をさして行き交っている映像は無音だ。雨が降っているような、なにか代わりになる音を探して、もう一度録音して映像に合わせる。ビニール袋を揉む、ラジオのチューニングを半端な位置で止める、砂を鉄板に少しずつ落とす。

6/6

 

出土したばかりの副葬品のジャーマンポテトの表面についた土をやわらかい刷毛で注意深く払いのけるとジャガイモもベーコンもなくて皿だった。さっき払った土を手ですくって皿の上に少し戻す。

6/7

 

前の家では布団を敷いていたが、床でも、廊下でも、揺れている船の客室でも、帰り道の植え込みの中でも寝たことがある、ベッドは何度もある。パチンコ屋の駐車場で寝ようとしたら警備員が近づいてくる足音に起きて場所を変えた、屋根がついている駅前のバス停のベンチには先客がいて熟睡しているこの男はいったい何時に起きるの?とは聞けないし、隣合わせで寝ていても朝に一緒に起きるとは限らないから財布と携帯をパンツの中に隠して、靴を枕にして横になる。笑っていたら、見かねた別の男が家に泊めてくれた。年の離れた男は、差し向かいで座ったリビングで自家製のサングリアを勧めてきたので、一杯だけつきあった。サングリアはその時初めて飲んだ。男は二階建ての一軒家に住んでいたが、足が不自由で、めったに使わない二階部分は今は物置として使っているがもともとは子供部屋で、子供が使い終わってそのままになったベッドに、新しいタオルケットを用意してくれた。エアコンがないから寝苦しいかもしれないけど、と言って水の入ったコップを枕元に置いた。寝苦しいことはなかったが、たくさん寝汗をかいて起きた。コップを持って一階に降りたら男はすでに起きていて、きっと毎朝そうしているのだろうという感じでリビングの椅子に腰掛けていた。

6/8

 

ガム噛んでない。

6/9

 

左のウインカーを出しながら減速して二階建てのファミリーレストランの駐車場に入っていく車を追い抜きながら、テーブル席に向かい合って座っている人影が見えた気がした、窓、から漏れていた店の照明のオレンジ色、が過ぎ去るとまた集中する、目の前の道路はしばらく黒い。

6/10

 

夏の仕組みの説明は、地軸が傾いたまま太陽のまわりを一日かけて自転しながら一年かけて公転する地球の北半球に立っているからこの時期はだんだんと日が長い、窓から見える外もまだ明るいなって思ってた帰りの電車が到着した駅で降りて改札抜けた頃には暗くなり始めている太陽に背を向け始めている球体の地表から生えたマクドナルドの看板のMが光っている駅前のロータリーで酔った女に抱きつかれた男もそれ以上に酔っていてミジュ、ミジュ、と言って笑いながら入っていったコンビニの自動扉が開くと冷えた空気が吐き出されて外のぬるい空気と混ざる。室外機のモーター音。

6/11

 

蓮の葉が浮かんでいる、池は浅く、一番深いところでも膝の頭が埋まるくらいで、手を差し込めばぬっとりと暖かい、蓮の根を避けて底からすくいあげた泥を、集めて広げて乾かすための場所が必要で、突如現れる無人の広い空間は、用途不明で、床の素材すらまだ決まっていない。日が高いうちにある程度まで作業を進めておきたいようで、池と何回も往復している、器のような形をした両手の指の先から泥が落ちていく。床に広がっていった泥は、次の日の朝になると丁度良い具合に水分がなくなり粘土質の土ができあがる。粘土の準備ができると、よく乾いた素焼きの板を用意して、そこに頭と内臓を抜いた魚を何匹もまとめて置いて、その上から魚が見えなくなるくらいの草を、あれはなんの草だろうおそらくは香草の一種なんだろうが聞きそびれた。草の上から口に含んだ酒を二、三度まんべんなく吹きかける。それから粘土をかまくらのように丸く覆いかぶせて、木ベラのような道具で叩き固める。このまま粘土が乾くのを待って、かまくらが自然にひび割れる頃になるとやっと取り出して食べることができる。その頃になると犬や猿も匂いを嗅ぎつけて魚を掘り返しにくるから注意しなければいけない。

6/12

 

横倒しに寝かせた皮を剥がして赤いはずのヤギの体をすっかり覆い隠すように白い蛆が湧いている。強い酒か、強い火、あるいはその両方が欲しいとヤギは訴えている、きっと、その通りにしてあげよう、と決意した小さな子供が、酒場の前で立ち尽くしている顔に貼り付いた表情は、金がないのだ。ヤギを酔わせる酒を得るための、そもそもの金を得る手段がないことで、閉ざされた気持ちにさせられることに憤慨している、はじめは泣いているのかと思ったが違った。火はあると思った、火なら。あれは、誰のものにもなっていないはずだ。交換で得るものでもない。走って、走って戻ってきて、もう一度まじまじとヤギを見る。目をマッチにして何度も擦りつける。

6/13

 

凧が、凧が、鳥が、空に、空が。

6/14

 

オーソッドクスなレギュラーカラーでありながら適度なドロップショルダーがトレンド感も損なわない自然なスタイリングを可能にします。また、フロントポケットに入ったステッチと、スクエアカットのシャツテールが遊び心のあるワークスタイルを演出。合繊繊維のポリエステルを使用した適度な光沢感とハリが、一歩間違うとルーズな印象になりがちなボックスシルエットであっても上品な佇まいになります。ドライタッチな素材感で、春夏通してあなたの身体よりもワンサイズ上に着用されています。ネイビーとチャコールグレーの2色展開。モデル身長178cm(Lサイズ着用)

6/15

 

閉めた襖の間から漏れた光が金色の糸のようで、つかめるのだろうか、手をかざせば、ぴんと張った糸は手の表面の凹凸に沿ってゆるんだ。暗がりで寝転んだままひらひらと手を返して、手の甲と平の上で、金の糸が遊んでいる。

6/16

 

5人乗りのセダンに乗り込むことのできる6人目であった頃の身体は、まだ1人と数えられていないくらいだから大丈夫よ」と叔母の笑い声のする車内の、煙草の匂いは運転席の男が1人で乗っている時だけ吸っていた時に踏むアクセルペダルの加減と、5人を乗せている時の加減はだいぶ違うんだ、と思っているのかダッシュボードの灰皿を引き出して煙草の先端から白い灰が落ちてむきだしの火種が赤く尖っているのを見ずに、フロントガラス越しの景色は来た時は明るかった、帰りはもう暗かったから光っているパトカーのランプが対向車の列にいるのを遠くのうちに見つけられて「隠れて!隠れて!」と言われて後部座席に座っている3人の足元の隙間にぎゅうぎゅうと詰められたら隠れることのできた身体のサイズで、丁寧に上からジャンパーをかけたりしたらどこにいるんだろう、どこどこと路面の凹凸が伝わってきて、笑って揺れてるジャンパーにくるまって暖かい。

6/17

 

突如として向きを変えた風に、バンと音をたてて張った帆が船体を大きく傾けたなら、急いでその逆方向に体重を移動させつつ開きすぎた帆の角度を修正するためにメインシートを引き込む時、握っているのはポリエステルのロープだが、手のひらに感じる張力は船を追い抜こうとする風でもあり、適正な角度に調整した帆がそれを受けるとぐいぐいと推進力に変わり、船首が左右に割っていく景色。

6/18

 

今日までに劣化していたプラスチックは黄ばんで網の目みたいに細かい亀裂がはしっていて端をちょっとつまんだだけで割れた、の?、カランと音がした、つまんでいるままの破片を元の位置にあてがってみても隙間がある、床に落ちたんじゃないの、どこだろう冷蔵庫の下には埃が溜まっている、これはいつからあって、いつまであるの?埃の中から赤い輪ゴム見つけたら手首に巻いて、机に向かうとパソコンの画面にはアマゾンで789円で売っているマットブラックとクリアーの二種類から選べる新品のプラスチックが届くのは早くても明後日、それまではこのまま、机についている肘は日に日に黒ずんでいく、の?、よく見てキスする。

6/19

 

空港か、高速バスの発着所かどこかそのような、これから長い距離を移動をすることになる場所に向かっている、道すがら、前を歩いているキャリーケースを引いている男もきっと同じところに行くのだろう、同じように濡れた傘をキャリーケースと反対の手にぶらさげている、出掛けに降っていた雨はもう止んで、家から持ってきたこの傘は閉じられて向こうについても使うかどうか。空港の出発ロビーは暖かい空気、バスのターミナルは半屋外で雨はもう止んでいるといっても吹き込んでくる風は冷たく、半袖から突き出ている腕、シャカシャカのパーカーがリュックの中に入っているけれど、どこか、来た道を少し引き返したところにある喫茶店で、傘を赤いベロアの椅子の背もたれに引っ掛けようとしても傘の先が床について斜めに倒れるのを数回繰り返して、結局は足の間に置いたリュックと一緒に膝で挟んで座る、ズボンの内腿のあたりに水がしみこんでいく間に食べ終わるモーニングは何の味がしたか、店内の床は濡れていたこと、コーヒーは飲み干してしまっていて、だから水を飲み干して、結露したコップの底に貼りついた伝票。

6/20

 

隆起して高台になった岩盤の、脇腹あたりに露出した岩壁を掘って作られた暗い、壕の中に設けられた銃眼から見下ろす街並みは四角くトリミングされて光ってみえる。上半分はペタッと全部が空で奥行きがない。下の方には遠くて小さく並んでいる屋根屋根屋根屋根からひとりだけ背の高いえんじ色の屋根をかぶった教会、動いているのは車、通りには人もいる、フロッグコートの前を閉じて話している、その向かいには聞いている人は、こちらに背中を向けて顔が見えないが左の耳にはあれはイヤーカフ、そっとつまんでるの、だろうか、身を乗り出そうと手をかけたのは、銃眼の縁だ岩だ、ノミの彫り跡がある。

6/21

 

砂利のついた氷を拾い上げ、水で洗い流す。

砂利と一緒に氷から氷が洗い流されていく。

6/22

 

ベビーパウダーで真っ白になったジェフベックの指先がエビの腹の隙間に突っ込んで殻を剥くエビチリの下準備のために神経質になでている六弦の背側に切れ込みを入れて竹串で背ワタを引っ掛けて抜き取るとディレイがかかった磯の匂いにヒゲをぴんと張った猫の首をつかんでいた左手でハイフレットをくすぐっているうちに片栗粉まみれになっていたテレキャスターから離した両手を上にあげてベースにソロをもっと続けろと促せば客席からはパチパチと油のはねる音がする。

6/23

 

蚊がおまえを吸ったときに感じたおまえ全体の大きさに相当するような大きさを持つものにおまえも吸い付いてみたら、目の前には大きいものの部分があって露出していた皮膚なのか、鉄骨なのか、どちらも脚部で、それは鉄塔だったと鉄塔だけは思うかもしれないが、おまえは鉄骨にしたたか歯を打ちつけて目眩、これは一体なんだろうと思うように蚊も、あれはなんだったんだろうと全体を思い描くことないままくるぶし(と呼ぶ部位だった)から飛び去っていくその軌道を目で追う、場合によっては殺意を含んだ目線を送るように、鉄塔はするだろうか。わあーん、わあーん、と遠鳴りする。

6/24

 

アルフォートのチョコレートの帆船はうねる波の上を船首から順番にフォアマスト、メインマスト、ミズンマスト、それぞれにとりつけられたすべてのセイルにたっぷりと追い風を受け、わずかに取舵をきりながらこちらに向かって航送してくるのを、チョコレートの面を下にして口の中に入れると、舌の暖かさにだんだんと波のうねりは消えて、セイルのふくらみも失われて凪になる。上の歯にはビスケットがあたっている、もう少し力をいれたら割れる。

6/25

 

ドーはドーナッツーのー「ドー」はミ

レーはレモンの「レー」はファ

ミーはみーんーなーの「ミー」はソ

ファーはファイトの「ファー」はラ

6/26

 

ナイロンのブラシと、真鍮のブラシと、ステンレスのブラシが、ある。どれもサビをとるのに使えそうだ。ゴシゴシと。指でこすっても取れなかったもんで来たんだホームセンター、の売り場に立って、しゃがんで、三種類あるんだなぁブラシをひとつひとつ手にとって、毛先をあててみる指にゴシゴシとサビを落とすみたいにしたら血が出ちゃうからしないけど、それよりも弱い力でやってみている試してみているどれも指には痛かろう、なんてサビは言うだろう。サビの下にはクロムメッキしてあったから、メッキまではがしてしまうんじゃないステンレスのブラシじゃあ。真鍮にするか、研磨剤あればナイロンでもいけるか?サビを連れてこなかったのは失敗だ、指しか連れてきてない。歯ブラシだと、透明なプラスチックに入って売られているので、毛先にさわれないので読むしかない「かため」。今使っているのは「ふつう」だったっけ、開封したパッケージ捨てたので洗面台で無言。

6/27

 

「百年経った、ニトリのカーテン売り場でね、展示品の窓枠に取り付けられていたカーテンを、それをシャーって開けるイメージあったのに、朽ちてんのね。」

「ボロ、って?」

「そう、やっぱボロボロって。」

「百年経った、ニトリのカーテン売り場でね、展示品の窓枠に取り付けられていたカーテンを、それをシャーって開けるイメージあったのに、朽ちてんのね。」

「ボロ、って?」

「そう、やっぱボロボロって。」

6/28

 

遠目に男は、1cmです、地平線に対して垂直に立っている。よく見れば動いているのか踊っているのかどうか、もっと分からせようと腕や足を動かしたのがダンサーですが、いや腕を伸ばしたら広がったところまでがダンサーなのだろうか、足は一歩二歩と踏んだら進む、がさ、と枯れ草の音がこちらまでは聞こえずに、本当に歩いたのかしらと疑っているので腕も足もなくて蛇です、垂直の。蛇にも長さがあります頭から尻尾までが、遠目だからか桜の花びらと同じくらいでつまめるような、それとも事実つまめる大きさである、蛇も一文字二文字と読んだら進む、ずず、と腹にこすれる地面との摩擦で生じる熱をみずからの体温だと錯覚する。這って脱皮した皮膚を振り返ってはじめてこれが長さだったのかと、つまみあげる指がないこと。

6/29

 

ポール状の車止め。ポール状の車止め。奥に道が続くがその前で止まるように、お前どんな幅か、ポール状の車止めとポール状の車止め。の間からは、見えてることは、マンションの入り口だったり、土手にのぼるスロープだったり、アーケード商店街だったりして、行くか、座ったままアクセル踏んだりしてる意志で、車の幅だったらぶつかる、ちょうど目に、ヘッドライトにぶつかる、硬い、ステンレスの銀色のポール状の車止めとポール状の車止め。の間ともしも同じ幅をしていたら、ぴったりはまってしまって動けないだろうか、と、ポール状の車止めとポール状の車止めを交互に見ていたその往復にかかった時間よりもタイヤ幅の狭いロードバイクに乗った女は通る、見送ったらもう細い、背中の、ショルダーバッグのファスナーを閉めたら金具がもう一個の金具と隣同士になってカチカチ鳴っているんだろうか、いいえ風切り音と自分の吐息の他には何も聞こえない耳が遠ざかる、夕暮れ時にはぐんぐんと前から金色が来る、こーれーらーがーいーえーまーでーのーかーえーりーみーちーわーたーしーのーすーむーまーちー。

6/30

 

蝉が鳴くなら雨止んでるのは、雨降ると蝉は鳴くの止めてるなって気がついたいつかよりも後になってまた蝉が鳴いてる時にぱたぱたとにわか雨降り始めて聞こえていたのは蝉の音が雨の音に代わって傘持ってない昨日の夜に降っていたらしい雨で濡れた道路が乾き始めていたのにまた濡れ始めていくのを顔にかかる雨粒に目を細めながら家に着く頃には屋根にあたる本降りになってきたらしい音が激しく続いていたけどタオル出してまずは髪の毛拭いてTシャツだけ変えようかなと脱いだシャツ洗濯籠にいれて鶏肉を冷蔵庫にしまうときにビニール袋がガサガサする音はずっと聞き続けるわけでもなくテーブルの上の要らないレシート散らかってるのを入れて他にもゴミないかなと部屋を見て回るズボンの裾はまだしっとりしているまま椅子に腰掛けてパソコンつけると開いたままのFacebookに通知1件見てみると今日が誕生日の人が3人いる本当はもっといる無料のウェブ漫画を少し読んでいる身体からは何の音もしていない上唇を引っ張っては放して引っ張っては放している指先に鼻息がかかっていることに向かいかけた意識は早いけど昼飯作ろうかと立ち上がって椅子がガタンと大きな音を立ててすぐ消えてまったくの無音になった部屋に、蝉の音、雨止んでんの?磨りガラスの窓開けて蝉の音大きくなるのは雨降ってないの見てわかるのに手を突き出して手のひらに何もあたらないから空見れば午後はこのまま晴れそうだしどこかに出かけるとしてもまずは飯作ろと台所に向かう足に当たるズボンの裾は家に着いた時からは少し乾いていった間きっと木にしがみついてじっとしてた蝉はいま羽と羽を擦り合わせて鳴らした音が身体の中にある共鳴箱っていう空洞の箱で増幅されてるんだって身体の中に空洞の箱持ってないからわからない感覚、声出してみる「あー」喉仏びりびり。

7/1

 

置こうとするマグカップの底とテーブルの間に小指をそっと挟んでみよう。

7/2

 

喚起される情景はまだない。牛舎。目の動きが追う文字列に、牛たちは頭に生えた角でお互いを刺して殺してあってしまわないようにと角を切られた時の激痛で白目の部分には血管が浮き出て黒目は焦点が合わない、こちらを見返してこない。朝にも夜にも思えるような色調、まだ決定していない歩き回れるくらいの広さの中に〈座っている〉と明記されなければ、思えばなぜか始めから立っているまま、柵までの距離を見積もる、素材は鉄に、無塗装で屋外に放置すればたちまち錆が浮く。牛の、角があれば鉄柵の隙間から顔を出す時に引っかかる、その度に防錆剤が剥げ落ちる。角は頭蓋骨から伸びていて、血管も神経も通っていて、鉄柵に引っかかって立てる鈍い音を頭蓋骨に響かせる角、それがない。〈四つん這いでいる。それが牛には普通だ〉という看板、あれば読む。

7/3

 

ドラクエ6から登場した、取得したアイテムをいれておく「どうぐぶくろ」は名前を変更することもできて、ドラクエ7からはアイテム取得時のメッセージ表示にも名前の変更が反映されたので例えば「くち」と名付ければ、操作する主人公は村の家屋の脇に並んだツボを叩き割って薬草を見つけたら「くち」にいれた。薄暗い洞窟の隅に落ちていた鍵も「くち」にいれた。城の武器庫の壁にかかっていた斧も「くち」にいれた。拾ったものはまず口にいれて確かめた。人からもらったものもまずは一度口にいれた。口に貯めこんだ穀物は、そのでんぷん質が唾液中のアミラーゼによって糖化、さらに野生酵母によって糖が発酵してアルコールが生成される。飲み込むことはしなかったが、口内の粘膜からも少しずつアルコールが吸収されていく。

7/4

 

柄をつまんでぷらんと持ち上げたスプーンの重さ、先端をただ置いただけでいくらか沈み込む、冷めたじゃがいもの表面にできた凹みを見ながら、次の言葉を考えているのだろうか無言で、椅子にあずけた一日を終えようとする体の重さで、見えているものの中から何か変化を探せば、柄をつまんでいる親指と人差し指の爪の先が白くなりはじめている、じゃがいもにめりこんでいくスプーンが、カチンと、皿にあたる、じゃがいもが二つに割れている。

7/5

 

ソックタッチ塗り直して靴下の上から手で軽く押さえる。足首を回すと少し突っ張る感じ。どんな匂いか。

7/6

 

チェーンを履いたタイヤで路面の雪と一緒にアスファルトも削りながら走るバスに追い抜かされながらペンギンみたいに歩く踏み固められた雪はよく滑ることを雪国に生まれて育てば体得する歩行法で、目線は足元のまま進むので、自分が住んでいるところの観光ガイドに載っている写真に写っている雪景色や積もった雪の重量で垂れ下がるケヤキの枝先が昼間は日差しで溶けて細長い形を保ったままの雪が雪の上に落ちる、音がしたかどうか、見ないまま向かい風の中を半目で、手袋を忘れてダッフルコートのポケットの内布を掴みながら帰って、玄関ではまず踵同士をぶつけて長靴にマカロンみたいにくっついた雪を落とす。そして、向かい風だったんだ、コートの前半分だけが白くなっている、手ではらう、室温で溶け始めた雪でコートが濡れて、起毛した生地に水滴が光る。

7/7

 

私たちは読める以下の、J.L.オースティンは『言語と行為』という本のなかで〈行為遂行的発言〉の不適切な場合としていくつか挙げられる条件のうち〈不誠実〉という項目を立てて、「その手続きが、しばしば見受けられるように、ある一定の考え、あるいは感情をもつ人物によって使用されるように構成されている場合、あるいは、参与者のいずれかに対して一連の行為を引き起こすように構成されている場合には、その手続きに参与し、その手続きをそのように発動する人物は、事実、これらの考え、感情、意図をもっていなければならない。」と書くときに想定しているのは発言・発話行為に付随するものなのだろうけど「なあ、お前はこれを読んでいて」と突如指をさされた私は、携帯を握りなおし画面にうつる文章の続きに目をやると、「その手続きに参与し、その手続きをそのように発動する人物」が、「事実、これらの考え、感情、意図をもっていなければならない」というのはマカクザルを用いた実験によって発見されたミラーニューロンのことを思い出す、電極をつながれたマカクザルはアクリル板越しの研究員が机の上のマグカップを取ろうと伸ばした手を、見ていて、私は手を伸ばしていなくて、手を伸ばそうとするときには脳が司令を送る「手を伸ばせ。」と読んだ時に手を伸ばすわけではないけれど、伸ばした経験を「もっている」ことが発火する、目の前に起こっていることといえば私に似た姿形の研究員がコーヒーをすすっている、ずずず、と音を立てている、と書かれている。

7/8

 

『シャキシャキレタスのシーザーサラダ』と製造時にプラスチックのケースに貼られたシールに書かれた文字に、陳列棚から目に向かってシャキシャキしていますよと言われた誰かなんかは、このサラダに入っているレタスはシャキシャキしているのだろうかそれだったらあたしはレタスに関してはシャキシャキと食べることを好ましいと思う人であるし、ここのところ野菜も不足していたことですし、と口に運ばれたレタスは作られ運ばれ並べられ買われ食われるまでにかかる時間でどんどんシャキシャキではなくなっていってるのだが、シャキシャキであると表明するその心意気を買った信じて払った312円なので代金分くらいはシャキシャキしてもらわないと、シャキシャキしているという商品価値も含まれてのこの値段設定なんでしょうシャキシャキできないっていうんだったらシャキシャキ分返してもらいますよと詰問しはじめるか、あるいは盲目的にシャキシャキって書いてあるんだからシャキシャキなはずだろうと噛み潰しているのはレタスのシャキシャキというよりもシャキシャキというお言葉であって、強い信仰心はクタクタのレタスの中にもなんとかシャキシャキの部分を見つけるが、それはレタスじゃなくて少しふやけたクルトンの歯ごたえなんじゃないか。つうか気づいたんすけど、シーザードレッシングは別袋に入っていてまだサラダにかかっていないのでこれはまだシーザーサラダでもない、シーザーサラダになれるサラダだ。無視してマヨかけて食う。

7/9

 

電気をつけた台所で、ここ最近使っていなかった家電と目が合ったまま、立ったまま、思い浮かべることのできる言葉の中で一番埃をかぶっているものを、探しに行く時に手足はあったか、袖を通したパーカーの、フードの紐の片側だけを引っ張っていたら途中で結び目の引っかかり、が手に抵抗感、を越えて引いた、力加減に紐が全部抜けちゃったら、壊しちゃったもうダメだ直らないと感じたその時はまだ方法を知らない小さな子供が、細い棒に紐の先をくくりつけて穴に通し布越しに棒をつまんで少しずつ送っていく尺取り虫みたいな動きを肩越しに見ている、肩にもたれている、体重が、眠たいのか暖かくなっている手を「直ったよ」と握った手から伝わってくる、このままベッドまで運ぼうとする夜を感じたのか、まだ眠りたくないと思っている、体はもう眠っている、歯磨きをしてやらなければ、まだ0時をまたいで起きていたことのない頃の今日が終わろうとしていて、タオルケットを抱いている朝にはパーカーが直っている今日になっている、驚いている、喜んでいる。

7/10

 

開いた本の中で、ハリーはおでこにある傷跡が時々痛むという、自転車で転んだ時みたいに?「燃えるようだ」火傷みたいな感じなのだろうか、「稲妻の形をしているよ」と書いてあるページを開いたままにしてベッドを抜け出し洗面所に向かい、洗面台をよじ登って、鏡の前でおでこの少し右寄りに爪を押し当ててみればジグザクに赤くなっている皮膚の、痛みはしばらくは稲妻の形をしていたがだんだんと薄れていって、もうなんともない。ハリーと同じ学校に通いたくて駅のホームで目を閉じて思い切り!コンクリートの柱に体をこすりつけて、おそるおそる目を開けると見える灰色の、防音シートにすっぽりと包まれた駅ビルは耐震工事をしている。加藤治郎という歌人は〈ぼくたちは勝手に育ったさ 制服にセメントの粉すりつけながら〉という歌を詠んだ、彼もホグワーツに入学できなかったのだろうか。

7/11

 

「この芝居は小説ふうに読めるように書いている。芝居の脚本であるがため読者が大へんな想像力を要することがないようにというしくみである。

時=現代

人物=中年の男(四十歳)と女(三十五歳)

ありふれた温泉町のホテルの三階あたりの一室、一応ホテルの体裁がととのっている。左手に窓、山が見えることになっているが、観客に山が見える必要はない。右手にトイレ、椅子二つ、ベッド二つ、サイド・テーブル、電気スタンド、タンスなど。壁に半身がうつるぐらいの大きさの鏡。それに帽子かけ。」

(小島信夫「どちらでも」河出書房新社、1970年、3頁)

7/12

 

この季節になると太陽の昇る高さが変わって午前中だけ日が当たる軒下に、誰が育てているのか知らないが育っている鉢植えを、前はおもてに置いたままにしておくと盗んでいく人がいたものよ、それも良い鉢植えばっかりを選んでさ、憎たらしいわね。最近はどうもそうゆう人はあんまりないみたいだね、死んだのかね。盗んだ鉢植えはどうしただろうね、まあ死んだって植物は勝手に育っていってるだろうって想像するのよ、こうやって」と言って、両手でつくった輪っかを水平にして空のほうを見上げる。そのためには屋根のないところに置いておいてほしいもんだわ、屋根なければここらに雨が降れば、鉢の中にも丸く降るでしょ、墓石にも四角く降るでしょ。

7/13

 

500円の唐揚げ弁当を買って袋いりますかと言われて袋いるなら3円かかるんですけどと申し訳なさそうにしているので近いので家までが帰りますそのまま輪ゴムではさんだ割り箸がパチンと音のする平たくて黒い容器に透明の蓋がかぶさった弁当を水平にして手に持って、少し下り坂になった、歩いていく目の前の道にまたがるようにかかっている高架の向こう側から隣の家に住んでるおじさんは夜になると叫ぶ「何回言ったと思ってるんだ!馬鹿野郎!」と誰かに向かって怒鳴っているのは部屋の中にいるときのおじさんの声で暑い暑いと言っているめずらしくカンカン照りの日中で、高架がつくる日陰を通り抜けた顔が真っ白になって、それがだんだんと近づいてくるとおじさんの顔だと分かって、会釈をしようとすると会釈をした黒いスーツ姿のおじさんは体の前で両手で抱えるようにしている水平に、遺骨をいれた箱を持っている、おじさんの母親だろう人はその数メートル後ろを歩いていて、いま高架の日陰を抜けて、真っ白になって、すれ違う時にはとても近い距離にいる老婆は暑い暑いと言っていて汗で湿った白髪がおでこに張り付いている。

7/14

 

画面から顔をあげると目の前に、蛇の腹、じゃない。は、いつかは誰もが眠ってしまう今日がまだぬるぬるしている、蛇の頭も尻尾も見えない、今日からだと。巻かれている?包まれている感じはする、サラウンドって意味に近い、音とかは曲がる、だから後ろの方でシャウシャウと喉が鳴るのを見ていないのに、見ているのは顔につけた目が向いている方向を前と呼んでいる、という一列の文字。画面から顔をあげると目の前に、寝る前の今日。

7/15

 

また目ぇ開けてら抗えずに寝たのに抗えずに起きてしまって朝日はカーテン閉めないまま寝たら開いたままになっていて差し込んでくるので横たわっている東の窓に向けた頭のあたりが明るくて見ている人からすれば真っ白になってしまって誰だか分からない顔からすれば眩しさに終わりかけている夢の中であった人には性別もなかったが誘惑された心が惹かれていたじんわりとした感覚を抱えたまま起き上がる今日も同じ国に湿度の高い土地に去年から住む街に見慣れた部屋にニトリのベッドに腰掛けて挨拶をするおはようあまりにも大きな蛇は今日の長さよりもずっと長くてここからだと腹しか見えない、鱗、に手を引っ掛けて立ち上がって、鱗、脱いだズボンを探して、鱗、パソコンを開いてメールを読んでしばらく考えて、鱗、鱗、鱗を数えて午前中が終わり

7/16

 

1コマ目にいた蛇が、2コマ目にもいる、二匹いるのだろうか、鱗は省略して描かれていて数字の3のようなものが並んでいる、少し体勢を変えたようにも見えるが時間が経っているのかそれとも印刷の具合だろうか、どちらも無言で、触っても威嚇してこない紙の、再生紙の、表面を上から下に向かって移動する視線が途中で、まばたきをして、見た3コマ目にも蛇がいる、三匹目も鎌首をもたげるという便利な言葉が蛇の姿をあらわすためにあって、本家である鎌を振りかざしても蛇のようではない、人は鎌を持って睨む薮の奥を、もうすっかり蛇のためのものになっていることを知ってか知らずかすべての蛇が鎌首をもたげている、4コマ目の蛇の口のあたりから出た吹き出しが空白になっていて少し「     」考える、「便利な言葉だ」と書いてあったら蛇の声で読む。

7/17

 

照明が設置されていないトンネルの中は真っ暗な筒で、道幅は狭いのか広いのか、暖かいのか寒いのか、どれくらいのスピードで通過しているかもだんだん分からなくなってくるが耳をすませるとエンジンの音が聞こえるから走っていることは走っているのだろうけど、低くくぐもった音は生きているものの鳴き声のようで、それは外から聞こえているような、左右前後の窓で周囲を確認しても黒くて、腹のなかを進んでいるのだとしたら尻尾に向かっているのか頭に向かっているのか。景色を見てそこに新しく見たものを呼ぶことができないので、すでに車内にあるもので、それはここまで持ってきていた運んできていたもので、遊び始めた後部座席の子供たちがここまでで知っている言葉を思い出しながらしりとりをしている、りんごごりららっぱぱんつ、そのあと知らない言葉、それなに?と聞くと、さっきのサービスエリアでガシャポンで当てたおもちゃをぐいっと運転している視界にねじ込んできて「こいつの召喚獣じゃん!」と言う。

7/18

 

「シャカシャカのパーカーと一緒にお布団に入るのです。」

7/19

 

そこには古い皮膚に囲まれていて、思い浮かぶ言葉がひとつも無いってことはないはずなのに、椅子に座っているまま(目には連続ドラマが映っている、主演の俳優が勢いよくプールに飛び込む、水しぶき、カメラのレンズに水滴がつく、一呼吸置いてエンディングテーマが流れ始めた、画面下からせりあがってきたスタッフロールを律儀に追いかける眼球の上下運動をやめてもいいが、やろうと思ってはじめてない、やってしまっている、やめようと思えばとやめられるが、やめるためにはどこか画面の一箇所をかなり意識して見つめなければいけないのでこれはかえって集中力がいる、捕まえていた目を放してやるとすぐまた上下にくんくん動き始めた、犬が尻尾を止められないみたいに。今週も見れて嬉しいか?来週には主演の男がなぜプールに飛び込んだか分かるのだろうか、気になる恋の行方は?俳優は水中で息が持つのだろうか、来週のこの時間まで、このまぶたを開けておいてあげれば、目はドラマの続きを見れる。

7/20

 

ベランダに立つ身体が見下ろした、木はたくさんの葉に覆われていて、葉のひとつひとつが風を受けて、あっちに向いたりこっちに向いたりしていて、見下ろしたままの姿勢で、一つの葉に目を定めてみていると気がつくのは単にその場で向きが変わるだけじゃなくてゆらゆらと枝だ、枝ごと動いていると思うと同じ枝に茂っている葉はひとかたまりに見える、グループがある、枝も一本だけではなくてたくさんあって木を覆っている、枝のひとつひとつが風を受けて、あっちに向いたりこっちに向いたりして、よじれたような動きをする、見下ろしたままの姿勢で握っているのは金属のベランダの手すりはあの枝よりも冷たい、ここからだと折り重なった枝に隠れて幹は見えないが、幹から生えていることを知っている私で見下ろす木は、幹も揺れている、幹の揺れはぐらんぐらんと、枝に枝に、葉に葉に葉に葉に葉に。

7/21

 

19時前に帰れたので、地下の駐車場でまたがった原付に差し込んだ鍵をひねると目の前のコンクリートの壁を照らしたヘッドライトの丸い光の輪を、通路に白いペンキで描かれた順路を示す矢印に這わせて進みゲートを抜けて坂を登って駐車場を出ると、外はようやく日が落ち始めただいだい色の街で、左手のクラッチを握って左足のスニーカーを履いた爪先を上にあげて1速から2速に右手のアクセルをひねるとワイヤーに引っ張られて開いたスロットルバルブから混合気がエンジンに送り込まれてピストンに圧縮されて点火されて爆発してピストンを押し戻すエネルギーがクランクによって回転運動に変わり左手のクラッチをゆるめていくとフリクションプレートがクラッチプレートに押し付けられていってクランクシャフトの回転がフロントスプロケットに伝わりリアスプロケットに伝わり回ろうとするリアタイヤのゴムが路面と摩擦を起こして推進力を得ると、風景が左右に割れる、だいだい色の街で、2速から3速に、回転数は7000回転、信号は、夏の、夜になりかけてる、青のまま、3速から4速に、押し分けている空気が、遠く信号が赤く光る、4速から3速に、3速から2速に、だんだんとぬるくなる、アクセルを軽くひねりつつクラッチをゆっくり戻してエンジンブレーキをかけつつ右手でフロントブレーキ右足の爪先でリアブレーキ、左足の爪先は2速から1速に踏んだシフトペダルを今度は軽く戻してニュートラルに入れる、両足を地面につける両手はハンドルを握ったまま信号を渡るショートカットの女がマスクをしているどんな顔か、信号が点滅しはじめて小走りになる汗が出るちょうど信号を渡りきったところでバイクが走り去っていった音が高架の下だから大きく響いてやがて遠のいていくのを最後まで聞き届けない、だいぶ日が傾いて街の色も濃くなってきてこういう日の夜は涼しい、どこからかお祭りみたいな匂い今年はない、私じゃない人がコンビニに入ったので開いた自動ドアから冷えた空気が流れてきてそこをくぐって歩いて通り抜けるとまた生暖かい空気にぶつかる、でも髪は切って良かった頭が軽いのとシャンプーの量が減ったのとドライヤーの時間減ったのとおおげさかもしれないが髪が長い時には考えなかったようなことを考えるようになって、髪が長い時にはどんなことを考えていただろうか鏡には短い髪型をして映る耳が見えている人の考え方というか思考の癖になる、地下鉄のホームに続く階段を降りていくリュックを前に背負い直して定期を取り出そうとしている。

7/22

 

あと1時間後には起きるんだと思って眠ろうとする時、もたれかかろうとする1時間という厚みはグラグラと頼りなく、逆にこっちが1時間を支えてやるみたいになってうまく寝付かれない。すでに眠り始めていて起きたのがたまたま1時間後なら、眠っている間に

(ここで一度、離席)

流れたのは1時間だったんだ。

(と、これは1時間後に戻ってきて書いた)文章を続けざまに読み終える。

7/23

 

「最悪だ 「スマホの液晶が割れちゃった 「見せて 「スクショしたひび割れのない画像を 「送ってるみたいな 「完全なる日常に」 不可欠になってきた」 ツルツルとして向こう側が見える」 透明の板が飛ぶように売れて」 貯まった金で犬を飼う」 撫でる毛」

7/24

 

赤、青、赤、青、赤、青、赤、青、赤、青、赤、青、赤、青、赤、青、赤、青、赤、青、赤、青、赤、青、赤、青、赤、青、赤、青、赤、青、赤、青、赤、青、赤、青、赤、青、赤、青、赤、青、赤、青、赤、青、赤、青、赤、青、赤、青、赤、青、赤、青、赤、青、赤、青、赤、青、赤、青、赤、青、赤、青、赤、青、赤、青、赤、青、赤、青、赤、青、赤、青、赤、青、赤、青、赤、青、赤、青、赤、青、赤、青、赤、青、赤、青、赤、青、赤、青、赤、青、赤、青、赤、青、赤、青、赤、青、赤、青、赤、青、赤、青、赤、青、赤、青、赤、青、赤、青、赤、青、赤、青、赤、青、赤、青、赤、青、赤、青、赤、青、赤、青、赤、青、赤、青、赤、青、赤、青、赤、青、赤、青、赤、青、赤、青、赤、青、赤、青、赤、青、赤、青、赤、青、赤、青、赤、青、赤、青、赤、青、赤、青、赤、青、

と色混ぜる、何色、黒い文字。

7/25

 

照明を落とした室内の壁際に設置された白い展示台の上の標本箱の中にピン留めされた虫の足元にこれもピン留めされた小さな紙片に書かれた名前は「ヨツスジトラカミキリ」甲虫目カミキリムシ科トラカミキリ族のうちのただ一匹だけが死んで代表している「ヨツスジトラカミキリ」の体は黄色い細かな毛に覆われていて胸と翅に黒いまだら模様があり細長く伸びた赤褐色の後肢はまるでアシナガバチのようだ近づくのはやめておこうと思うのは葉の上にとまっている「ヨツスジトラカミキリ」を見つけた時に腹が減っているカナヘビがこいつを食べてしまいたいと思うと同時にもしもアシナガバチであれば持っている毒のイメージが頭によぎってわずかに躊躇した間に飛び去った「ヨツスジトラカミキリ」は擬態が役に立った瞬間を観察されていたビデオカメラで撮影もされていた個体で展示室の壁にかかったモニターに流れている「ヨツスジトラカミキリ」が飛び去ったあとに残された葉がスローモーションで揺れている映像に映る同じ森の中には観察されないまま擬態をしつづけている個体もいてそいつの名前も「ヨツスジトラカミキリ」というのだが呼ばれたことは一度もなく呼ばれる必要性も感じることなく過ごしていて発見もされないままどこかできっと食べられたり冬の寒さに耐えかねて死んだりしていたら標本箱の中には「ヨツスジトラカミキリ」という名前の書かれた紙がピン留めされているだけになるので他には目が見るものがなく仕方がないのでもう一度「ヨツスジトラカミキリ」と読んで覚えたこの名前はいつかこの虫を見る時までのこれからに向かって投影される字幕になる。

7/26

 

動き出した電車の中をなるべく人がいない車両を探して無言で歩いていく、車両と車両を隔てるスライド式のドアーが重くて軽く手をかけただけでは開かずに、手から肩までを固定して身体ごと倒れるみたいにして開けて、次の車両は空いてる誰も座っていない7人掛けの座席の一番端に座って足を伸ばしているスーちゃんと大学の友達からは呼ばれている女は履いている銀色のフラットシューズがとても気に入っていて、電車が地下を走る時、窓の外の線路内の蛍光灯がびゅんびゅん通り過ぎるのが、私の銀色の爪先にも、「光っていて綺麗だ」スーちゃんは靴の先がぴかぴかしているのを見ながら、そう思っていない、ただ見ていて、いま私はただ見ていたなぁと気がついたら考えてしまって「何考えてるの?」と聞かれて、「ん、靴が光ってて綺麗だと思って」と答えてしまう。

7/27

 

「手持ちぶたさでつけたラジオから」

「こんな曲ながれたりすんだ」
「行ってないねープール」

「行ってないねープール」

(スチャダラパー「サマージャム’95」1995年)

7/28

 

あ、ほら。凧。」と、言葉だけがある、しゃべっているのは若い夫婦がベビーカーを押しながら、遠くの空にうかぶ凧を見つけて歩いていることは、その方向に向かって歩いていくことは、ここに「凧」すこし離れたところにもう一つ「凧」と、読み進めることと、読まれている間は同じで、その時は空には凧の他には何もなくて、呼ぶとしたら青い、視野に入る全てが青いから、特に呼ばなかった、空に呼べるものは凧だけが、鳥飛んだら「鳥もいる」それは一瞬でいなくなったので、声を聞いて慌てて空に向けて首を曲げて見逃した私もそこにいて、鳥がいたであろう、若い夫婦が二人そろって見上げている視線の先、鳥は一瞬いた、見逃した私にとっても凧はまだ浮かんでいる、「あ、ほら。凧。」という声はもうない、が、かわりに自分で、見え続けている凧を、「凧だ」と呼び直していた「ここに鳥もいたのか」今はもう鳥は見えてない、ここに鳥いない、ここに鳥って文字読むだけでは何の鳥か分からない、知っている鳥のどれかを当てはめているのだろうか、どんな鳥を知っているだろう、どんな鳥を知っていくだろう、何種類の鳥を知ってから死ぬだろう、図鑑を買ってあげよう、持ち歩くのにはずっしり重すぎるぐらいがいいだろう、家に置いたまま出かけてしまうだろう、鳥の名前だけを持って外へ、身体。

7/29

 

アルミホイルくしゃくしゃにまるめてつくったボールを投げると、それ大好き猫が追いかける全速力、速さと方向を想像、ぶつかっちゃうよそのままの勢いだと、壁に、いや冷蔵庫に、おそらくは室内、遅れて床が出現、フローリング、に爪たてる音、興奮状態だ狩りをする動物の爪が平滑なフローリングの上で滑る、長毛種なので肉球の間からも毛がはみ出してしまっていてそれに本来のグリップ力を奪われている、外を歩く猫ならば、接地する地面が様々、砂利だったり草っ原砂地木の皮アスファルト泥水トタン瓦屋根を渡り歩く間に、毛は磨耗してある程度以上伸びたりしない、肉球がいつもむき出しになる、ほのかな湿り気を帯びた、サンダルを脱いだ裸足でスーパーの床を踏むと冷たかった、エアコンで床も冷えている。

7/30

 

夜に口笛を吹くと蛇がでるよと眉をしかめているのは口笛の音を聞いて誰が吹いているの振り返って見つけたすぼまった口の形から漏れ聞こえていた音は細くて長くて言葉を喋るのとは違ってくちびるでも歯でも舌でも分断されていない連続した音の連なりが呼吸のタイミングだけで途切れて、吸った息は肺に送られてわずかにタオルケットが動いたように見えた思わずつかんだ腕の位置に腕がないと思ったら思ったより細かっただけで骨だった触れているのは水色のタオルケットの起毛した毛の一本一本を知覚するほど敏感ではない手のひらには印象、サラサラとしているという言葉による感想、汗ばむ季節にはこれ一枚というキャッチコピーが書かれたポップが揺れているイトーヨーカドーの一階寝具売り場から抜け出してフードコートのたこ焼きの匂いミスドの匂いを抜け出して吹き抜け、見上げた首の角度が俺とか私とかの知っていることはつまんないのかなって気分になるけどホウセンカの種つまんだら弾けて飛ぶみたいに叫ぶみたいに金あるからタクシー拾ってタクシーの窓から別のタクシーのテールランプぬるぬると赤く黒く濡れて走っていくのがあれみたいだ、夜にトラやライオンが丸いライトで照らし出されて迷惑そうに見返す車中から見ている人間は複数人いる、ナイトサファリみたいだと考えたが言わなかった運転手も猟銃を携えていなかった白い手袋をしている。

7/31

 

砕氷船が乗りあげた分厚い氷を自重で割る音が響く船内に、いたことはないがイメージできるかどうか、船内ではくぐもって聞こえていたけど甲板に出てみると地鳴りのような低音の中にも金属同士が擦れ合うような甲高い音が混じっていることに気がつく、音は、船と氷の間で生まれてから、船から見えるのは地平線まで続く白い氷原の、どこまで聞こえているのか、これだけの轟音が、吸い込まれていくような、遠近感を失う白さ。

8/1

 

別々の方向からやってきた緑色のジェット機が3機、同じ座標を目指して衝突したみたいに葉を茂らせた銀杏が、夏の盛りにある。

8/2

 

take1

私が草むらへと進んだ、ぬかるんだ土が足の指の隙間から出てくる感触も久しい、腰ほどの高さの草に囲まれてむき出しのふくらはぎに葉が触れる、油断するとすーっと切れるので慎重に歩く。

take2

私が草むらへと進んだ、裸足なのか靴を履いているのか草が重なっていて見えない、赤いよれたワンピースが草むらの緑の中で映える、カメラを持たされたまま立つアスファルトの照り返しが熱い。

take3

私が草むらへと進んだ、その時から草むらの手前に現れたあなたが立っている草むらの手前の地面の素材はまだ決まっていない、地面がないこともある、あなたは立っていないこともある。

take4

私が草むらへと進んだ、その時から草むらの手前に置き去りにされた私が認識する草むらへと進んだ私との間に実際の距離はない、別アングルのカメラではない、その隔たりに蛇が棲む、というかその連続が蛇の形をしていると考える。

8/3

 

0歩歩いてそんな顔、閉じた口の中に舌をしまっている。

8/4

 

生きてて、日本の千葉県松戸市稔台一丁目のスーパーマーケット「TAIRAYA」稔台店の自動ドア入ってすぐ右手の青果コーナーに千葉県産の梨ありました。

食べました。と今、嘘書きました。食べました、これは本当の。と読みました、これは本当の。

梨食べれるのでデートはここまで、見えなくなるまで手を振る仕草。

企画:関川航平 ​協力:アートギャラリーミヤウチ